BMW 7シリーズ G11に12.3インチセンターディスプレイを流用

G30 12.3インチCIDレトロフィット
G11純正10.25インチ

Bimmerpostのmrgicmさんの投稿を見て、BMW 7シリーズ G11 後期(LCI / iDrive 7) 10.25インチ センターインフォメーションディスプレイ(CID。コントロールディスプレイとも) を5シリーズ G30 後期 純正(OEM) 12.3インチに交換しました。ネジ位置が同じでコネクターもそのままつき、ダイアグコードもありませんでした。G12も同様でしょう。

ただG11前期(Pre LCI)のiDrive 6は上記スレッドのようにマップとCarPlayの表示に制限があります。CarPlayは専門知識があればヘッドユニットにsshで接続しcarplay.iniを変更することで解決するもよう。また製造日が古いディスプレイしか使用できないようです。ちなみに前期車両にiDrive 7を載せた話題もありましたが、US$2,500〜3,000となかなかなお値段だったとのこと。

さてボルトオンとは言え、ダッシュボード形状はもちろん、ネジ以外の固定方法も違うので、そのあたりを良い感じにする部品を熱溶解積層方式(FDM) 3Dプリンターで作りました。データとともに対応方法を公開します。

追記 : 改良版があります。製作に挑戦する方は両ページともご覧下さい。

ご質問、お問い合わせ、作業依頼、印刷パーツの提供等は承りません。

良いこと・悪いこと

結論から言えば12.3インチ化はかなり満足でした。

  • 画面が大きくなることで全てが見やすく、特に360°カメラ表示がわかりやすくなりました
  • 20mmぐらい画面が手前に来ることでタッチ操作が少し楽になりました

ただ我慢しなければならないこともあります。

  • 流用するG30後期純正ディスプレイが新品だと10万円前後します
  • 少し圧迫感があります
  • 老眼には画面が近づくことが視点あわせのストレスになるかもしれません
  • センタースピーカーの壁になるので音の聞こえ方が変わるかもしれません
  • 輝度がじゃっかん高めなので光に敏感な人には少しまぶしいかもしれません

でも大画面は正義、どれもこれも数日で慣れます。輝度についてはコーディングで多少調整できます。

2つのディスプレイを同じ角度にして屋外の電線を反射させてみました。どちらも写り込みがほぼ無い優秀な表面コーティングですが、右のG30用は抜群です。やっぱ自動車メーカーが作る部品はすごいですね。Androidナビ(HU)なら鏡のようにピカピカに反射します。

そのAndroidナビは12.3インチで純正同様にダッシュボードから生る違和感無いデザインでほんとにポン付けですが、画面反射がひどい他に、自動明るさ調整が無い(ライト点灯によるディマーのみ)、車両電源オンごとのコールドブートに時間がかかるという点は個人的に我慢なりません。F10で遊び倒した経験から、E/Fシリーズならアップグレードといえますが、Gシリーズだとびみょーです。やっぱり純正はよくできてるんですよ。

必要なもの

まずG30 LCI 12.3インチディスプレイを入手しなければ話は始まりません。eBayでドイツの業者から"65 50 5A477D2"(〜'20.07)を買いました。部品リストETKには"65 50 5A07E68"('20.07〜'22.06)も載っています。同様にeBayで"BMW G30 CID 12.3"といったワードでも検索できますが、前期10.25インチもついでに表示されるので間違えないように。今回はほんとにG11で使用できるのか不安だったので2割の手数料で返品可能という出品のものを選びましたが、その返品されたらしいものがうちに届き、ハウジングの一部が少しへこんでいてちょっとショックでした。今回の設計にあたり何十回と脱着し、たまにぶつけたりもしたのでもう気にしてませんけど、返品可ということは当然それが回ってくることもあります。新品/新古品で格安の7万円台(為替による。送料別)だった理由はこれでしょうね。記事掲載時この業者による該当ディスプレイの出品はありませんでした。

なお最初に書いたように前期車両では古い製造日のユニットしか動作しないらしいので気をつけて下さい。先ほどのmrgicmさんの投稿によると、'19後半〜'20初頭ごろの生産で、シール右上のFDVが01.05(まで?)のものが必要とのこと。

次にこの記事の肝となる3Dプリンターです。製作するステーに強度をもたせるためカーボン含有素材が扱える高温対応のものとその素材が必要で、QIDI X-CF Proプリンター純正PA12-CFフィラメント を使いました。これ以外のパーツはeSUN ABSフィラメントです。大きいパーツは左右分割しているの印刷可能サイズは一般的なものでいいと思います。

こすれ・異音防止は全てテサテープ頼みでした。19mm幅が一般的ですが25mmやそれより広いものがあれば面をつくるとききれいで楽。なお使用後は端を折り返しておくと次にめくりやすいでしょう。

作業中はディスプレイに貼っておく表面保護テープが保険。マスキングテープより厚くて柔軟なので安心感があります。なおBMWのシフトレバーはクリア層がよわよわで剥がれるので絶対に貼らないで(涙)。

他にはマスキングテープや養生マットなど内装保護いろいろと、一般工具ですね。細かいものは都度補足します。

メインステーを製作

写真はディスプレイの裏側で、上がG11、下がG30です(一部加工済)。G11はネジの他に制御基板ケースを兼ねた丸い部分でも保持される4点どめ(+ダッシュボードへの差し込み)なのでご存じの通りグラつきませんが、G30流用では樹脂部へのネジどめ2箇所しか行えず、また損傷しやすい皮革のダッシュボードにディスプレイのエッジが乗った状態になりました。

なのでG11純正に近い固定ができるステーを製作します。

AESUB(エイサブ) ブルースプレーを吹き、家庭用3Dスキャナー Revopoint POP 2で形状を取り込みました。AESUBは、粉末ではないのに表面が白く低反射になりそれが数時間で消えるという、謎成分の便利な3Dスキャン専用品です。結構くさい。

G11
G30

スキャンしたデータにトレーシングペーパーを重ねるような感じでステーを設計していきます。家庭用スキャナーの精度がいまいちなので小さい部分からプリント・修正を繰り返すちょー地味な作業でしたが、これ無しではどれだけ時間がかかったかわかりません。

そんなこんなで完成。カーボン含有素材PA12-CFはかなり硬いです。

ダッシュボードにスライドさせる丸い部分は印刷が垂れたところのサイズが合わないので、円定規の13mmに入るようヤスリで修正。

この丸部分と、ディスプレイハーネスが接触しそうなところにテサテープを貼り異音対策します。

G30ネジステーを加工します。トリックアートみたいな写真ですけど、ベルトサンダーで山部分を平らにし、リューターでネジ穴を下に1mmほど拡大します。アルミ材なので頑張れば人力ヤスリでいけるかもしれません。なお試作の過程で山をさらに下まで削っており、他の写真ではそうなっていますが、現在公開中のモデルデータでは不要です。

G30ディスプレイに、製作したメインステーがぴったりはまります(写真は試作のため形状が一部異なります)。

ステーでディスプレイを持たないでください。いつか外れて落っことします。

先述の部分の精度が重要なので、そこの表面が荒れにくいようこんな角度で印刷するといいでしょう。

ディスプレイの下側フレームを製作

G30ディスプレイ下側フレームにはデザイン上の厚みと角があり、これがG11ではダッシュボードに当たって傷になるので、超音波カッターで切り落としました。断面はヤスリ掛け。

あと写真ではまだ残っていますが、カット済フレームの保持をしていた部分も全て超音波カッターで切り取り、平らに整えます。

なおディスプレイをさらに持ち上げるよう、ネジ穴を大幅拡大し、ダッシュボード内で乗っかる部分にスペーサーを入れるなどすれば、この項の加工は不要かもしれません。もうカットしちゃったので確認しませんが。

カットしたフレームの代わりに、角を減らしたものを製作しました。エッジ類は多少加工が要ります。そしてこれをボンドで接着LOCTITEラバーパテで端だけすきま埋めしました。

ラバーパテは練る時に手が真っ黒になり、触ったものにそれを移します。なので使い捨て手袋をたくさん用意して常にきれいな状態をキープし、またディスプレイも養生しておきます。特に画面部分にこれが付いたら大惨事。

パテ汚れはウェットティッシュでも拭き取れますがケバが出るのでIPAキムワイプ、ベビー綿棒を大量に使いました。綿棒はヘラよりもパテの整形に有効でした。

今回はプリントしたフレームにボンドを薄く広げてからパテをこねディスプレイ端に塗りつけ、急いで貼り付けるという感じでやってみましたが、パテの方が固まるまで時間があるのでそっちが先の方が良いかもしれませんね。そして、パテが粘つかなくなってきたころに整形していきます。

ボンドでくっつけたあと、黒のシリコンシーラントをすきまに注入するってのもありだったかも。整形がむずいかな。

硬化後。いまいちっぽい見た目ですが、何度もフレーム形状変更をしているので実はパテ4回目で、これでもまあまあよくできた方なんですよ(笑)。

あと、組み上がった状態でアルミ地が見ないようネジステーのこのへんにテサテープを貼っておきます。

ダッシュボードに触れたときのクッションに、念のためテサテープを貼っておきました。端まで貼らなければほぼ見えません。

ダッシュボードとディスプレイのすきま埋めパーツを製作

次はダッシュボードとディスプレイのすきまを埋めます。ディスプレイ後端の反り返り部分を切り落としたいところですが、その後の加工がめんどうそうなので強引につなげるデザインにしましょう。

ダッシュボードの穴形状もわりと複雑です。

試作を繰り返し完成。これもプリンターサイズ的に分割しました。

面のびみょうな湾曲もまあまあ再現できました。反り返り部分が連続するような複雑なデザインはぼくには無理なので行いません。

左右合体させる前にヤスリで合わせ目を整えます。

ABS材なのでアセトンで溶着。アセトンはホームセンターの塗装コーナーで見つかるでしょう。スポイトでシリコン作業マットなどに垂らし、100円ショップで買った筆で塗りつけていきます。

なおアセトンはあちこち溶かすので注意が必要です、作業もこのシリコンマット上で行うのがベスト。シリコンマットは熱にも強くヒートガンで電子基板の表面実装部品を取り外す時にも使っており、不安なときはとりあえずこれを敷いとけばいいので重宝します。

アセトンをつけた筆でABSプリントをぐりぐりしていると表面が溶けてくるので、これを両パーツの接着面で行い、接合します。さらにすきまに筆先やスポイトで浸透させておきます。

硬化痕はペンサンダーで整えました。先の合わせ目修正にも使っています。

異音対策と表面のごまかしのため全面にテサテープを貼って完成。3Dプリントの積層痕を消すのが面倒なので塗装しませんでしたが、海外掲示板の反応ではこの見た目の評判が良くないようです(涙)。

組み立て

トランクとボンネット内の2つのバッテリーのマイナス端子を外します。ハイブリッドや24Vバッテリー搭載車は不明。これは安全のためというより、音量ボタン長押しで電源オフにしていてもタッチスイッチ類を触るだけでオンになる車両の仕組みで作業中に面倒なことになるのを防ぐためです。大爆音で音楽が鳴り始めたことも2度ありました(なぞ)。

バッテリー端子脱着時には、端子にスパークキラーを付けておくと火花が確実に減るので強く推奨。

電源が無いと開かないトランクが万一ロックされないよう、フックにウエスを結んでおきましょう。

インストルメントパネルを取り外す前に、樹脂製内装はがしで横のふたを外し、ネジ2つと、エアコンルーバー用コネクター1つを取ります。コネクターは引っかかりがある面に力を入れ反らせる感じで単に引っ張るだけ。

ふたについてるチャイルドシート用だったかの操作スイッチコネクターが外れた状態で電源が入るとダイアグツールでしか消せないエアバッグエラーが出るので注意して下さい。

ここからの作業にはダッシュボード全体の養生をします。手抜き時でもエアコンダクト上部にはしといた方がいいでしょう。

パネルは助手席側から順に手で外していきます。工具を差し込むと電飾部品を割るかもしれません。

パネルの右端は鋭利な作りで、これがあちこち傷つけます。特にステアリングの裏側なんかに当たるので養生しておきましょう。先のエアコンダクトも含め経験者しかわからない知恵です(涙)。

パネル裏側のコネクターは4つで、この順に外すのが楽かも。3は片側ロック、他は両サイドロックのつめがあります。

3のコネクターは指がほとんどかからないので、スイッチを先に外すのが正解。両側の金属プレートをなるべく押さえながら、裏からゆっくり押し込みます。雑に押すと金属プレートの根本が割れます(涙)。

4はとても硬くて指も入りづらいですが3のような方法は無く気合で。ステーにはまってるだけのコネクター一式が外れれば楽なんですけど割れそうなので諦めました。なぜかコネクターつかみツールが役に立ちません。すきまに乾性潤滑剤を吹くと多少楽になりました。

ディスプレイのネジは落っことすと二度と取れないので、下にマットを敷いて、さらにマグネットピックツールでワッシャーを保持した状態で脱着します。

ダッシュボードを傷つけないよう純正ディスプレイを外します。ネジ2コ以外はダッシュボードにはまってるだけなのでこじるようにゆっくり上に持ち上げ、ネジステーが見えたら手前にスライドする感じ。ディスプレイの丸コネクター(LVDS)がなかなか抜けないのでここにも乾性潤滑剤を噴射。

製作したステーが乗っかる部分とディスプレイハーネスにテサテープで異音留めをします。運転中に異音が出る場合はこの乗っかる部分だと思うので、厚手のシリコン系両面テープを貼ってその分ステーを削るなど対策して下さい。うちでは今のところ問題ないのでこのままです。

ステーとすきま埋めを順に入れます。

戻すネジは少し入れづらいです。ネジ受けになっている赤いタブの位置を調整したりディスプレイを上から押さえるなどして締めて下さい。先ほどのネジ穴拡大が少なかった可能性もあります。

完成。なかなかにぴったりですね。ディスプレイ単体との組み合わせだと良い感じでも車両に装着すると面がずれたりディスプレイが奥まで入らなかったり、出てくる問題を1つずつ解決していくのが大変でした。また違和感があったテサテープの見た目も、愛着のせいかこれはこれで悪くない感じに思えてきました。

ディスプレイとダッシュボードのすきまも数ミリ確保されています。ダッシュボードに痕が付かないようこだわった部分。

ただ何日かするとディスプレイが少し前に倒れるのかなんなのかこの隙間が減るので、しばらくはメモ帳を差し込みその枚数で確認するといいでしょう。このあと先のステーが乗っかる部分にアセテートテープを2枚追加しその分ちょっとだけ高くしました。

そのうち3Dプリントのステーを修正します。

全て組み立てたあとドアの閉まり方に違和感がある場合、サイドパネル奥のゴムプレートの入れ方に問題があります。手前からドアモール、ゴムプレート、ボディーという順なので確認して下さい。

オンにすると時計を設定せよというメッセージが出るので行ってください。また少し走行するとパークディスタンスコントロール(PDC)機能停止の警告も出ますが、しばらくすると消えます。

最初にも書きましたが360°カメラが見やすくなるのがいいですね。そもそもBMWにもう少し知能があれば、クソどうでもいいステータスバーと右の設定項目を消したりオーバーラップさせたりでカメラ画像を大きくデザインできたはずですけど。

コーディング

変更しなくても不都合はありませんが、少し便利になります。コーディングについては各自調べて下さい。

文字サイズ変更

以下の変更で、テキストのみ12.3インチ用に縮小表示させることができました。コーディング後の下写真ではメニューの表示行数が増えていることがわかります。ステータスバーや画像、タイル、カメラ映像などはそのまま。

HU_MUG
3005 APIX_CID_UND_ZIN
① CID_DISPLAY_SIZE 10_25 → 12_3
② CID_DISPLAY_SIZE_2021 10_25 → 12_3

後期iDrive7では ② だけ効果がありましたが念のためそれっぽい ① も変更しました。

輝度調整

コントロールディスプレイの“夜間の明るさ”設定が、過去のiDriveのように昼間にも反映されるようにできます。情報元はBimmerfest投稿の#25以降。それに合わせて表記も変わる英語版iDriveと違い日本語版は残念ながらそのままでした。

HU_MUG
3005 APIX_CID_UND_ZIN
DIM_VARIANT new → old

たぶん純正の自動輝度調整が最大設定でそこから指定分減らすという仕組みだと思いますが、ほとんど変わらないときもありよくわかりません。減らしすぎると暗いとき見えなくなるのでマイナス2〜3にしてます。

画面輝度に大きく影響するセンサーはコンビネーションメーター右端の薄い四角部分。覆ったりライトを当てたりしてここの明るさを変え先のゲージをプラスマイナスすると設定の考え方が理解しやすいかもしれません。

ID6対応

iDrive6の場合、DasMattiさん投稿によるコーディングが必須のようです。

3Dデータ ダウンロード

紹介したパーツの3Dデータ(stl)を公開します。

追記 : 改良版があります。製作に挑戦する方は両ページともご覧下さい。

PA12-CF、積層ピッチ0.2mm、ラフトありで印刷しました。推奨印刷方向は記事参照

ABS、積層ピッチ0.2mm、ラフト無しで印刷しました。下面を上にして印刷するのがいいでしょう

ABS、積層ピッチ0.3mm、ラフトありで印刷しました。ダッシュボードの皮革を傷つけないよう、とがったところは削ってください。印刷方向はテキトー

ご質問、お問い合わせ、作業依頼、印刷パーツの提供等は承りません。

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