Power Factory OBD2 を専門家が検証

車両の診断ポートに挿して150〜200km走行すると運転スタイルを学習しパワーとトルクが最大15〜20%向上するという “Power Factory OBD2” (以下PF)を、読者のすなともさんからお預かりしました。

今まで見てきたOBD2燃費・パワーアップ系装置の中では一番高級感がありますね。ドイツebayでは139.9ユーロ(2まんえん弱)でした。国内はもとより英語圏でも一般的には売られていないようです。

調査

まずは電源を入れるとどうなるか見てみました。赤・橙・緑のLEDが、まるで通信しているかのように点滅します。

お送り頂く前にすなともさんにより 過去に検証した ProRacing Tuning box とほぼ同じ部品構成だと確認済だったので、外部からの入出力検証はパスして分解しました。

左がOBD2ハーネスにつながるD-Sub9ピン、中央がマイコン、その右がLED、右端がリセットスイッチ、下側が12Vを5Vに変換する電源系です。基板裏面には何もありません。

使用されているマイコンは、確かに ProRacing Tuning box (や nitro OBD2) と同じ Microchip PIC16F59 です。これら装置との回路の違いは、水晶振動子(右上)にセオリー通りコンデンサーがついていること、LEDが3つに減ってること、下側に5こ並んでいるプログラム書き込み端子の並び順が異なってることぐらいで、あとはだいたい同じ感じです。

というわけで過去調査記事の通りこの構成では車両と通信できません。CANはコントローラーとトランシーバーのICが乗って無いので無理、今時の車両では使いませんがK-Lineは12Vなので5V駆動のマイコンだけでは送信不可です。

左側に伸びる配線がOBD2のどこにつながるかというと CAN High(6)/Low(14)、K-Line(7)、L-Line(15)、J1850 Bus +(2)/−(10) でした。L-LineとJ1850を使うクルマはココアシステムズでは見たことありません。これらがそれぞれ10kΩの抵抗器を介しマイコンに直結されるというむちゃくちゃな回路です。電源配線は裏側。

世の中に無数にあるマイコンの中でOBD2 Lチカ(LEDがチカチカする)装置では PIC16F59 一択というのが面白いですね。この業界ではこのマイコンこそが“ほんもの”の証なのでしょう。

ドイツebayの販売ページには “benutzt sehr schnellen 20MHz Prozessor”(非常に高速な 20MHz プロセッサを使用)と書かれていました。これも過去記事の通り、倍率設定が無いPIC16F59に4MHzの水晶振動子がついてるこの回路では4MHz駆動です。確かに最大20MHzで動かせるマイコンを“使用”してはいますが、まあLEDの点滅用なのでどっちでもいい内容ですね。

電流は30〜46mAと結構多いので、何日かクルマに乗らないときには外しておきましょう。

GPS測位エラーを引き起こすもよう

すなともさんによるとメルセデスベンツCLAにこれをつけると車内のドラレコ+レーダーのGPSが測位エラーを起こすとのことなのでそちらも見てみました。

こんな感じで、CANのダミーデータを500kbps・バス負荷20%前後の状態で送信・受信し続けるテスト装置2台(車両ECU間通信のつもり。写真には出ていません)に、OBD2コネクターで PF の電源・CAN(の場所の端子)を分岐接続した時どうなるか調べます。どの電線も極力移動しないよう作業しました。

PFなしのCAN
PFありのCAN

CAN Low-Highをオシロスコープで見るとPFありでは電位差無しのドミナント時(っていうの?)にノイズが見られました。ただ通信に問題が出るほどではありません。

PFなしのスペアナ
PFありのスペアナ

GPS L1波(1575.42MHz)の前後10MHzをスペクトラムアナライザーのRF Explorerで100回計測したグラフですが、これでは差は見られませんでした。このあたりで大きなノイズは出していないと見ていいように思いますが、無線はシロートなので間違っているかもしれません。GPSはビミョーな電波らしいので、注文中のこの周波数用のアンテナ(1まんえん!)が届いたら再度試す予定です。

残念ながら今回は測位不良の原因を見つけることはできませんでした。ただOBD2につながるPF内蔵マイコンの端子は全て入力モードでプルアップ・プルダウンもなく、CAN以外は未接続で浮いた状態になり(入門本に書いてある、ICではやっちゃだめなこと)、これが悪さをしていることはあるかも。現在ドイツebayにもPFのメルセデスベンツ用だけはラインナップされていません。OBD2まわりの車両配線図を見てみたいですね。

発売元

PF の発売元を検索するとポーランドでした。そういえば ProRacing Tuning box もポーランド製だったなあと思い調べ直すと…

めっちゃ近所じゃん!

Power Factory : Gliwicka 6/21, 59-220 Legnica, Poland (https://powerfactory.pl/)
ProRacing : Wroclawska 261, 59-220 Legnica, Poland (https://proracing24.com/)

ちなみに PF と全く同じ住所で Chip Power社(https://chippower24.com/)が Chip Tuning Box OBD2 というものを販売しています。“ガソリン車で平均15〜20%パワーアップ”・“燃費15%アップ”とのこと。見た目もほとんど同じなのでまあ想像通りのものでしょう。

ProRacingのシールは色が落ちる

時を経てそれぞれのLチカ製品が9千キロも離れたココアシステムズに届くなんて、なんという運命=デスティニー!!

解析協力 : すなともさん

これまでに調べたOBD2チューニング系パーツ

ココアシステムズではライフワーク(?)として通信系の燃費改善・パワーアップパーツの解析を無料で承っています。国民生活センター公正取引委員会からのご相談・資料提供依頼にも無償協力します。いずれもフォームからお問い合わせください